「口座開設の本人確認、なんでこんなに厳しいの?」「スマホで顔を撮る方式とハガキが届く方式、何が違うの?」——暗号資産取引所の口座開設で最初につまずきやすいのが本人確認です。何を求められているのか分からないまま進めると、書類の不備で差し戻されて時間だけが過ぎていきます。
この記事では、なぜ本人確認が必要なのかという法律上の背景から、方式の種類、使える書類、つまずきやすいポイントまでをまとめて整理します。仕組みが分かれば、自分に合った方式を最初から選べるようになります。

そもそもなぜ本人確認が必要なのか
暗号資産交換業者は、犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯罪収益移転防止法/犯収法)における「特定事業者」に位置づけられています。この法律は、マネー・ローンダリングやテロ資金供与を防ぐことを目的としたもので、対象となる事業者には取引時の本人確認と、取引記録の保存が義務づけられています。
つまり本人確認は、取引所が自主的にやっているサービスではなく、法令上求められている手続きです。「面倒だから省略してほしい」という要望に応じることはできません。
個人の場合に確認される項目
個人が口座を開く際には、次の項目が確認の対象になります。
- 本人特定事項:氏名・住居・生年月日
- 取引を行う目的:資産運用、決済など
- 職業
本人特定事項は、本人確認書類によって確認しなければならないと定められています。取引目的や職業を聞かれるのも、いやがらせではなく法令に基づく手続きの一部です。
本人確認の方式は大きく分けて2種類
実務上、利用者から見た本人確認の方式は次の2つに分かれます。
| 方式 | 特徴 | 所要時間の目安 |
|---|---|---|
| オンライン完結型(eKYC) | スマホやPCで書類と顔を撮影して送る。郵送物なし | 最短で当日〜数営業日 |
| 郵送を伴う型 | 書類を送ったあと、転送不要郵便が自宅に届いて完了 | 数日〜1週間程度 |
現在の主流はオンライン完結型(eKYC)です。郵送を待たずに済むため、口座開設から取引開始までが速くなります。
eKYCの主な方式(法令上の区分)
犯罪収益移転防止法に関する規定では、オンラインで完結する本人確認の方法がいくつか定められています。実務では条文の記号をとって次のように呼ばれます。
ホ方式:書類の画像+容貌の画像
本人確認書類の画像と、自分の顔(容貌)の画像を送る方式です。運転免許証などの厚みを含めて撮影するよう求められることが多く、書類が本物であることと、提出者本人であることを同時に確認します。
スマホのカメラだけで完結するため、多くの取引所で「かんたん本人確認」などの名称で採用されています。
このホ方式は、改正犯罪収益移転防止法により2027年4月1日をもって廃止される予定です。書類の画像は偽造やなりすましに弱いという指摘があり、非対面の本人確認はマイナンバーカードなどのICチップを読み取る方式へ寄せていく方向が示されています。今後は「顔と書類を撮るだけ」の手続きが使えなくなる可能性があるため、対応の変更については各取引所の案内をご確認ください。
ヘ方式:ICチップ情報+容貌の画像
マイナンバーカードや運転免許証のICチップを読み取り、その情報と顔の画像を送る方式です。画像の加工では突破できないため、ホ方式より確実性が高いとされています。NFC対応のスマホが必要です。
運転免許証のICチップを読み取る場合、交付時に登録した4桁の暗証番号(2組)が必要になります。忘れた場合は警察署や運転免許センターでの手続きが必要になるため、あらかじめ確認しておくと安心です。
ト方式:銀行など他の特定事業者への照会
すでに本人確認済みの銀行口座などを通じて確認する方式です。利用者側の手間は少なくなりますが、対応している事業者は限られます。
ワ方式:公的個人認証(JPKI)
マイナンバーカードの電子証明書を使う方式です。公的な仕組みで本人性を確認するため信頼性が高く、対応するサービスが増えています。今後の非対面確認は、このワ方式とヘ方式が中心になっていくとみられています。
ル方式:スマホに搭載したマイナンバーカードの機能
2025年6月24日から、スマートフォンに搭載したマイナンバーカードの電子証明書(カード代替電磁的記録)を使う方式が加わりました。カードそのものを取り出さなくても手続きができるため、対応するサービスは今後増えていくと考えられます。
参考:警察庁 JAFIC「犯罪収益移転防止法の解説、パブリックコメント」

使える本人確認書類の種類
取引所によって受け付ける書類は異なりますが、代表例としてコインチェックの公式FAQでは次の書類が案内されています。
| 書類 | 提出時の注意 |
|---|---|
| 運転免許証/運転経歴証明書 | 表裏の両面が必要 |
| マイナンバーカード(個人番号カード) | 表面のみ。裏面は撮影不可 |
| パスポート | 日本国政府発行のもの。新型パスポートは方式によって利用できない場合がある |
| 在留カード/特別永住者証明書 | 表裏の両面が必要 |
また、同FAQでは住民基本台帳カードは2024年3月をもって利用できなくなったと案内されています。古い情報を参考にして手続きを進めると差し戻される原因になるため、必ず各取引所の公式ページで最新の対応書類をご確認ください。
参考:Coincheck 公式FAQ「本人確認書類の種類を教えてください」
マイナンバーカードを持っていると、対応できる方式が最も広くなります。これから口座開設を予定している方は、先にカードを取得しておくと手続きがスムーズです。
本人確認で差し戻される主な原因
「提出したのに承認されない」という相談の多くは、次のいずれかに当てはまります。
1. 登録情報と書類の記載が一致していない
最も多いのがこのパターンです。引っ越し後に住所変更をしていない書類を提出したり、結婚で姓が変わったのに旧姓のまま登録していたりすると、記載が一致せず承認されません。
2. 画像が不鮮明
光が反射して文字が読めない、手ブレしている、四隅が切れている、といったケースです。明るい場所で、書類全体が枠に収まるように撮影してください。
3. 有効期限が切れている
本人確認書類には有効期限があります。期限切れの書類は受け付けられません。
4. 顔写真の撮影で条件を満たしていない
帽子やマスク、濃い色のメガネを着けたままの撮影は認められないことが一般的です。逆光や暗い場所も失敗の原因になります。
他人の書類を使う、画像を加工する、といった行為は法令に触れる重大な違反です。審査に通らないからといって、そうした方法を試すことは決して行わないでください。
本人確認が完了するまでの時間
オンライン完結型であれば、最短で当日中に完了するケースもあります。ただし、申込が集中する時期や、書類に不備があった場合は数日かかることもあります。「今日中に買いたい」という予定を立てるのは避け、余裕を持って手続きを始めるのが安全です。
また、口座開設が完了しても、日本円の入金が反映されるまでにさらに時間がかかる場合があります。相場の動きに合わせて急いで開設しようとすると、たいてい間に合いません。

本人確認のあとにやっておきたいこと
- 二段階認証を設定する:認証アプリ方式が扱いやすく、バックアップの保管もセットで行う
- 登録メールアドレスを確認する:普段見るアドレスにしておく
- 出金先の銀行口座を登録する:本人名義であることが条件
- パスワードを使い回していないか確認する
出金先の銀行口座は、取引所の登録名義と同一でなければ受け付けられません。改姓した場合は、銀行側と取引所側の両方で名義を更新しておく必要があります。
よくある質問
Q. マイナンバーの提出は必要ですか?
A. 取引所や手続きの内容によって扱いが異なります。税務関連の書類提出のためにマイナンバーの届出を求められる場合があります。必要になるタイミングは各社の案内をご確認ください。
Q. 健康保険証だけで本人確認できますか?
A. 顔写真のない書類は、単独では受け付けられないことが一般的です。複数の書類の提出や、郵送を伴う方式が必要になる場合があります。対応は取引所ごとに違うため、公式ページでご確認ください。
Q. 未成年でも口座を開けますか?
A. 多くの国内取引所では年齢制限を設けており、未成年の口座開設を受け付けていない場合があります。条件は各社で異なるため、事前に確認してください。
Q. 海外に住んでいますが開設できますか?
A. 国内の暗号資産交換業者は、日本国内に居住していることを開設の条件としているケースが多く見られます。海外転居後に居住地が変わった場合は、取引所への届出が必要です。
Q. 本人確認が終わったのに取引できません
A. 本人確認の完了と、入金の反映は別の手続きです。日本円が着金していないか、口座の一部機能が別途の申込制になっている可能性があります。取引所のマイページで、どのステップが未完了かを確認してみてください。
Q. 一度提出した書類を差し替えられますか?
A. 審査中であっても、不備がある場合は再提出の案内が届きます。案内に従って撮り直したものを提出すれば問題ありません。何度も差し戻される場合は、サポートに具体的な不備の内容を問い合わせるのが早道です。
Q. 顔写真の撮影がうまくいきません
A. 明るい室内で、背景に余計なものが映り込まない場所を選んでください。逆光になる窓際は失敗しやすい位置です。指示に沿って顔を動かす動作を求められる方式では、あわてず一定の速度で動かすと認識されやすくなります。何度か試しても通らない場合は、別の方式が用意されていないかを確認してみてください。
Q. 書類の住所が古いのですが、そのまま提出していいですか?
A. 現住所と一致していない書類では承認されません。まず書類側の住所変更手続きを済ませてください。書類の変更が間に合わない場合、追加の書類で現住所を確認する方式に対応している取引所もあります。対応状況は各社の案内をご確認ください。
Q. 引っ越したあと、取引所への住所変更は必要ですか?
A. 必要です。登録情報を最新に保つことは、犯罪収益移転防止法にもとづく確認の前提でもあります。変更を怠っていると、出金や各種手続きの際に止まる原因になります。
Q. 本人確認の情報はどう扱われますか?
A. 犯罪収益移転防止法により、取引所には確認記録・取引記録の保存が義務づけられています。提出した情報は各社のプライバシーポリシーに基づいて管理されます。取り扱いが気になる場合は、口座開設前にポリシーを確認しておきましょう。
まとめ
- 本人確認は犯罪収益移転防止法に基づく事業者の義務
- 確認されるのは氏名・住居・生年月日に加え、取引目的と職業
- eKYCには書類画像+容貌、ICチップ+容貌、他事業者への照会、公的個人認証といった方式がある
- 書類画像+容貌の「ホ方式」は2027年4月1日に廃止予定。ICチップ読み取り中心へ移行していく
- 使える書類は運転免許証、マイナンバーカード、パスポート、在留カードなど(取引所により異なる)
- 差し戻しの大半は「登録情報との不一致」と「画像の不鮮明さ」
本人確認は面倒に感じる工程ですが、利用者の資産を守る仕組みの入口でもあります。準備するものを先に把握しておけば、一度で通せる手続きです。慌てずに、書類と登録情報をそろえてから申し込みましょう。
※投資は自己責任です。必ず余剰資金の範囲で行い、最新の情報は各取引所の公式サイトおよび金融庁の公表資料でご確認ください。
※記事執筆時点の情報です。対応書類や手続きは変更される場合があります。最新の情報は各公式サイトでご確認ください。


