暗号資産の取引で利益が出たとき、その利益にどんな税金がかかるのかを正しく理解している方は、思ったより多くありません。「株と同じで20%くらいでしょう」と考えていて、確定申告の時期に慌てるというケースは実際によくあります。
結論から書くと、個人が暗号資産の取引で得た利益は、記事執筆時点の日本の税制では原則として雑所得に区分され、総合課税の対象になります。株式やFXのような申告分離課税ではありません。ここを取り違えると、納税資金の見積もりが大きくずれます。
この記事では、国税庁が公表している資料をもとに、所得区分の考え方、税率の仕組み、利益が確定するタイミング、確定申告で気をつけたい点を整理します。個別の判断については、所轄の税務署や税理士にご確認ください。

暗号資産の利益はなぜ雑所得なのか
国税庁の考え方
国税庁が公表している暗号資産に関するFAQでは、暗号資産取引により生じた利益は所得税の課税対象になり、原則として雑所得(その他雑所得)に区分されると示されています。暗号資産の損益は、円や外貨との相対的な関係によって認識される損益と認められる、というのがその理由です。
事業所得になる場合もある
ただし、すべてが雑所得になるわけではありません。同じFAQでは、その年の暗号資産取引に係る収入金額が300万円を超える場合について、次のように整理されています。
| 状況 | 所得区分 |
|---|---|
| 収入金額300万円超・帳簿書類の保存がある | 原則として事業所得 |
| 収入金額300万円超・帳簿書類の保存がない | 原則として雑所得(業務に係る雑所得) |
| 上記以外 | 原則として雑所得(その他雑所得) |
また、事業所得者が事業用資産として暗号資産を保有し、仕入代金の決済手段として使った場合のように、事業所得を生む行為に付随した取引であれば事業所得に区分されます。判断が微妙な場合は自己判断せず、税務署や税理士に相談してください。
所得区分や計算方法を体系的に確認したい場合は、仮想通貨の税金を扱った本を手元に置いておくと便利です。
総合課税とはどういう仕組みか
他の所得と合算して累進税率がかかる
総合課税は、給与所得や事業所得など対象となる所得を合計し、そこから所得控除を差し引いた金額に対して累進税率をかける方式です。所得税の税率は5%から45%までの7段階に分かれており、所得が大きくなるほど高い税率が適用されます。
これに住民税がおおむね10%加わり、さらに所得税額に対して復興特別所得税が2.1%上乗せされます。合計の負担率は、所得が大きい層で最大およそ55%に達します。株式の譲渡益やFXの利益が一律20.315%であることと比べると、仕組みそのものが違うことがわかります。
レバレッジ取引も分離課税にはならない
誤解が多いのがここです。国税庁のFAQでは、暗号資産の証拠金取引(いわゆるレバレッジ取引)について、租税特別措置法に規定する申告分離課税の適用はなく、総合課税により申告することになると明記されています。FXは金融商品先物取引等に該当するため申告分離課税の対象ですが、暗号資産の証拠金取引は分離課税の対象から除かれています。
現物取引もレバレッジ取引も、記事執筆時点では同じく総合課税の雑所得として扱われます。「レバレッジ取引ならFXと同じ税率」という説明を見かけたら、情報が古いか誤っている可能性があります。国税庁の暗号資産に関する情報で原典を確認してください。

利益が確定するタイミング
「日本円に換えていないから税金はかからない」と考えている方がいますが、これは正確ではありません。利益が認識されるのは、次のような場面です。
- 暗号資産を売却したとき:日本円に換金した時点で損益が確定します
- 暗号資産どうしを交換したとき:ビットコインでイーサリアムを買った場合も、その時点で売却したものとして計算します
- 商品やサービスの支払いに使ったとき:決済に使った時点の時価との差額が損益になります
- マイニング・ステーキング等で取得したとき:取得した時点の時価が収入金額になります
とくに注意したいのが2番目です。暗号資産どうしの交換を繰り返していると、円に戻していなくても利益が積み上がっていることがあります。年末に集計してみたら想定外の所得額になっていた、という事態はここから生まれます。
所得金額の計算方法
取得価額の求め方は2種類
売った暗号資産の1単位あたりの取得価額は、総平均法または移動平均法のいずれかで計算します。国税庁のFAQによれば、評価方法を選定して届け出ていない場合、個人については総平均法によることとされています。
総平均法は、その年に取得した分をまとめて平均する方法で、計算が比較的簡単です。移動平均法は取得のたびに平均単価を計算し直す方法で、手間はかかりますが実態に近い数字が出ます。一度選んだ方法は継続して使うのが原則です。
経費として認められるもの
収入金額から差し引けるのは、売却した暗号資産の取得価額のほか、その取引に直接必要な費用です。取引手数料や送金手数料などが該当します。一方、生活費と区別できない支出や、取引と直接の関係を説明できない支出は経費になりません。
取引所によっては、過去の取引履歴のダウンロードに期限があったり、サービス終了により履歴が取得できなくなったりすることがあります。年に一度は履歴を手元に保存しておくことをおすすめします。履歴が失われると、取得価額を証明できず、不利な計算になる可能性があります。
ダウンロードした履歴を印刷して保管する場合は、年ごとにファイルボックスへまとめておくと探しやすくなります。
計算のイメージをつかむ
単純な売買の場合
仮に、ある暗号資産を1単位あたり50万円で2単位購入し、その後1単位を80万円で売却したとします。1単位あたりの取得価額は50万円ですから、売却による所得は80万円から50万円を差し引いた30万円です。ここから取引手数料などを差し引いた金額が、雑所得の金額になります。
暗号資産どうしを交換した場合
次に、取得価額が合計50万円の暗号資産Aを使って、時価70万円相当の暗号資産Bを購入したとします。この場合、Aを70万円で売却してBを買ったものとして扱うため、20万円の所得が生じます。日本円を一度も経由していなくても、計算上は利益が出ている状態です。
決済に使った場合
30万円で取得した暗号資産を使って、40万円の商品を購入したとします。決済時の時価が40万円であれば、差額の10万円が所得になります。買い物をしただけのつもりでも、税務上は売却と同じ扱いになる点を覚えておいてください。
実際の申告では、これらを1年分すべて合算して計算します。取引の回数が増えるほど手作業では追いきれなくなるため、履歴の管理が要になります。

確定申告の大まかな流れ
1. 取引履歴を集める
利用しているすべての取引所とウォレットから、1年分の履歴をダウンロードします。複数の取引所を使っている場合、どれかひとつでも欠けると正しい取得価額を計算できません。
2. 年間の損益を計算する
総平均法または移動平均法で取得価額を求め、収入金額から差し引いて所得金額を算出します。取引が多い場合は計算サービスの利用が現実的です。
3. 確定申告書を作成する
雑所得として申告書に記載します。国税庁の確定申告書等作成コーナーを使えば、画面の案内に沿って入力できます。給与所得がある方は源泉徴収票の内容も入力します。
パソコンでマイナンバーカードを読み取ってe-Taxで提出する場合は、ICカードリーダーを用意しておくと手続きを進めやすくなります。
4. 期限内に提出し、納付する
申告と納付の期限は、原則として翌年の3月中旬です。納付の資金は、利益が出た時点で確保しておくと安心です。相場が下落してから納税資金を工面する状況は避けたいところです。
確定申告が必要になる基準
給与所得者の20万円ルール
給与を1か所から受けていて、給与所得・退職所得以外の所得の合計が20万円以下であれば、所得税の確定申告は不要とされています。ただし、この取り扱いは所得税だけのもので、住民税の申告は別途必要です。20万円以下だから何もしなくてよい、というわけではない点に注意してください。
その他に申告が必要になるケース
- 医療費控除やふるさと納税などで確定申告をする場合は、20万円以下の所得も含めて申告します
- 給与が2か所以上ある場合は、基準そのものが変わります
- 給与所得がない方(学生・専業主婦・個人事業主など)は、別の基準で判断します
ご自身がどのケースに当たるかは、収入の構成によって変わります。判断に迷う場合は所轄の税務署に確認するのが確実です。

損失が出たときの扱い
雑所得の計算上生じた損失は、給与所得など他の所得から差し引くことができません。国税庁のFAQでも、他の所得と通算できる損失は不動産所得・事業所得・山林所得・譲渡所得に限られると説明されています(所得税法69条)。
また、記事執筆時点の制度では、暗号資産の損失を翌年以降に繰り越すこともできません。同じ雑所得の中での相殺は可能なので、他に雑所得がある方は合計して計算します。

制度改正の動きについて
暗号資産の税制については、見直しが具体的に進んでいます。まず、暗号資産取引を金融商品取引法の枠組みに移す改正法が2026年7月15日に成立しました。税制の側でも、令和8年度税制改正によって、一定の要件を満たす「特定暗号資産」の譲渡等について申告分離課税(20.315%)とする内容が措置されています。損失については3年間の繰越控除を認める仕組みも併せて手当てされました。
ただし、ここからが重要です。適用が始まるのは金商法改正法の施行日の翌年1月1日以後であり、記事執筆時点では2028年1月からの適用が見込まれる段階です。施行日そのものは政令に委ねられているため、確定した日付ではありません。また、対象となる暗号資産や取引の範囲も、今後の政省令などで具体化される部分が残っています。
つまり、いま行っている取引は引き続き総合課税の雑所得です。「もう20%になった」と説明する情報を見かけたら、適用開始時期まで確認してください。現行の取り扱いと将来の取り扱いを混同しないよう、申告の際は必ず国税庁のタックスアンサーなど一次情報で最新の状況を確認してください。
よくある質問(Q&A)
Q1. 含み益にも税金はかかりますか?
個人の場合、保有しているだけで売却も交換もしていなければ、記事執筆時点では課税されません。売却・交換・決済への使用などによって損益が確定した時点で計算します。なお、法人が保有する場合の取り扱いは個人とは異なります。
Q2. 取引所から税務署に情報は行きますか?
国内の暗号資産交換業者に対しては、税務当局が必要に応じて取引情報を照会する仕組みがあります。申告漏れが後から把握されることは十分にあり得ますので、正確な申告を心がけてください。
Q3. 損益の計算が複雑で手に負えません。
取引回数が多い場合、手作業での集計は現実的ではありません。取引履歴を取り込んで損益を計算するサービスの利用や、税理士への依頼を検討してください。国税庁も暗号資産の計算書を公表しており、取引が少ない方はこちらで対応できる場合があります。
Q4. 海外の取引所を使っていても申告は必要ですか?
日本の居住者であれば、国内外を問わず得た所得が課税対象になります。海外の取引所を利用していても、申告義務がなくなるわけではありません。
Q5. 納税資金はどう準備すればよいですか?
利益が確定した時点で、その一部を納税分として別に確保しておく方法が現実的です。年末に利益が出ていても、翌年の納付時期までに相場が下がって資金が足りなくなる、という事例は珍しくありません。
Q6. 申告を忘れていた場合はどうすればよいですか?
期限後であっても、気づいた時点で自主的に申告するほうが負担は軽くなります。加算税や延滞税の取り扱いは状況によって変わりますので、早めに所轄の税務署か税理士に相談してください。
まとめ
個人が暗号資産の取引で得た利益は、記事執筆時点では原則として雑所得に区分され、総合課税の対象になります。所得税は5%から45%の累進税率で、住民税や復興特別所得税を含めると負担率は最大でおよそ55%に達します。
利益が確定するのは、売却したときだけではありません。暗号資産どうしの交換や、決済への使用も計算の対象になります。取得価額は総平均法または移動平均法で計算し、届け出をしていない個人は総平均法によることとされています。
損失は他の所得と通算できず、翌年に繰り越すこともできません。申告分離課税と繰越控除を認める改正はすでに措置されていますが、適用は2028年1月からと見込まれる段階で、現在の取引が自動的に分離課税になるわけではありません。取引履歴を保存し、判断に迷う場面では所轄の税務署や税理士に相談してください。投資は自己責任であり、余剰資金の範囲で行うことをおすすめします。最新の情報は金融庁や国税庁の公式サイトでご確認ください。


