海外の取引所を使っていると、「日本の税務署には関係ないのでは」と考えたくなる方がいるかもしれません。ここは最初にはっきりさせておきます。日本の居住者は、海外の取引所で得た利益についても日本で確定申告をする義務があります。
日本の所得税は、居住者に対して国内外を問わず得たすべての所得を課税対象とする仕組みです。取引の場所が国内か海外かで、申告義務の有無が変わることはありません。
さらに、暗号資産の取引情報を各国の税務当局が交換する国際的な枠組みの整備も進んでいます。この記事では、申告が必要になる理由、実際の手続きで気をつける点、そして情報交換の仕組みまでを整理します。個別の判断は所轄の税務署や税理士にご確認ください。

なぜ海外取引所でも申告が必要なのか
居住者は全世界の所得が課税対象
日本の所得税法では、国内に住所がある方などを「居住者」と定め、居住者については国内で生じた所得も国外で生じた所得も課税の対象としています。海外の証券会社で株を売った場合も、海外の不動産から家賃収入を得た場合も同じ考え方です。
暗号資産についても例外はありません。取引所がどこの国にあるかは、申告義務の有無を左右しません。利用しているサービスの所在地ではなく、取引している方がどこに住んでいるかで判断されます。
所得区分と課税方式は国内取引と同じ
海外の取引所を使った場合でも、個人が得た暗号資産の利益は、記事執筆時点では原則として雑所得に区分され、総合課税の対象になります。国内の取引所を使ったときと計算方法は変わりません。
なお、暗号資産の課税方式については、申告分離課税へ移行する改正所得税法が2026年3月31日に成立・公布されています。ただし適用が始まるのは関係法令の施行後で、2028年1月以後の譲渡からとなる見込みです。そのうえで、海外取引所を使っている方にとって重要な点があります。分離課税の対象は国内で取り扱われる一定の暗号資産に限られ、海外の取引所での取引やDeFiでの取引は対象外とされています。海外取引所での売買については、この先も総合課税のまま扱われる可能性が高いとみておいてください。適用の範囲は今後の政省令等で具体化されるため、最新の内容は国税庁・金融庁の公表資料でご確認ください。
国内と海外の両方で同じ銘柄を取引している場合は、それらを合算して取得価額を計算します。取引所ごとに切り離して計算する方式ではない点に注意してください。
国内外の取引をまとめて計算する考え方は、暗号資産の税金を扱った解説書で全体像をつかんでおくと整理しやすくなります。
情報が把握される仕組みが整いつつある
CARF(暗号資産等報告枠組み)とは
CARFは、暗号資産の取引情報を各国の税務当局が自動的に交換するための国際基準です。OECDで策定され、日本を含む多くの国・地域が導入を進めています。
仕組みはこうです。各国の暗号資産交換業者が、自国の居住者ではない利用者の取引情報を自国の税務当局に報告し、その情報が租税条約等に基づいて利用者の居住国の当局へ渡ります。日本の居住者が海外の取引所を使っていれば、その情報が日本の国税庁に届くという流れです。
日本での導入状況
日本でも制度が整備され、2026年1月1日から施行されています。国内に所在する暗号資産交換業者等は、一定の非居住者の暗号資産等取引情報を所轄税務署長に報告することとされ、報告された情報は、租税条約等の情報交換規定に基づいて各国の税務当局と自動的に交換されます。
つまり、これは「これから議論される話」ではなく、すでに動き出している仕組みです。事業者による初回の報告書の提出期限は2027年4月30日とされ、各国の税務当局どうしの初回の情報交換も2027年に行われる予定です。詳細は国税庁が案内しています(CARFコーナー|国税庁)。
申告漏れが後から把握された場合、本来の税額に加えて加算税や延滞税が課されます。意図的に隠していたと判断されれば、より重い取り扱いになります。制度が整いつつある以上、「申告しなくても分からない」という前提で行動するのは現実的ではありません。

国外財産調書と財産債務調書の扱い
ここは誤解が多い部分です。国税庁のFAQでは、居住者が国外の暗号資産取引所に保有する暗号資産について、国外財産調書への記載の対象にはならないと明記されています。
理由は、暗号資産が「財産を有する方の住所の所在」により国内外を判定する財産に該当するためです。日本に住んでいる方が保有する暗号資産は、海外の取引所に預けていても「国外にある財産」には当たりません。
ただし、対象外になるのは国外財産調書であって、財産債務調書への記載の対象にはなります。財産債務調書の提出義務は、所得や財産の額など一定の要件を満たす方に限られます。ご自身が該当するかどうかは、国税庁の案内で確認するか、税理士にご相談ください。
確定申告に向けた実務の流れ
1. 取引履歴を確保する
海外の取引所は、履歴のダウンロード形式が日本の取引所と異なることが多く、期間を区切ってしか出力できない場合もあります。年に一度ではなく、こまめに保存しておくほうが安全です。
印刷した履歴や関連書類は、年ごとにまとめて保管しておくと申告の際に見返しやすくなります。
2. 円換算する
外貨建てやステーブルコイン建てで取引している場合、円に換算して計算します。換算に用いるレートの考え方は取引の内容によって変わりますので、継続して同じ基準を用いることと、その根拠を残しておくことが大切です。
3. 国内分と合算する
同じ銘柄を国内外の取引所で持っている場合、取得価額は合算して計算します。総平均法または移動平均法のいずれかで、継続して適用します。
4. 確定申告書に反映する
雑所得として申告します。取引が多い場合は、複数の取引所の履歴を取り込める計算サービスの利用や、税理士への依頼を検討してください。国税庁も暗号資産の計算書を公表しています(暗号資産等に関する税務上の取扱い及び計算書について|国税庁)。
パソコンからマイナンバーカードを使ってe-Taxで申告する場合は、ICカードリーダーを用意しておくと手続きを進めやすくなります。

海外取引所を使うこと自体のリスク
日本の登録業者ではない場合がある
日本国内で暗号資産交換業を行うには、金融庁への登録が必要です。登録を受けていない事業者が日本の居住者向けにサービスを提供することは、法律上認められていません。金融庁は無登録の業者に対して警告を行った事例を公表しています。
無登録の業者との取引には、国内の制度による保護が及びません。トラブルが起きたときに救済を求めることが難しくなります。登録業者の一覧は金融庁が公表しています(暗号資産の利用者のみなさまへ|金融庁)。
突然サービスが終了することがある
近年、複数の海外取引所が日本の居住者向けのサービス提供を終了しています。口座が段階的に制限され、期限までに出金や決済を求められるという流れです。預けたままにしていると、対応の期限に間に合わないおそれがあります。
資産の保全体制が見えにくい
顧客資産の分別管理や、システムの安全対策がどうなっているかを外部から確認するのは容易ではありません。過去には、海外の取引所が破綻して資産が戻らなくなった事例もあります。取引する場合でも、必要以上の資産を預けたままにしない運用が現実的です。
| 論点 | 国内の登録業者 | 海外の無登録業者 |
|---|---|---|
| 申告義務 | あり | あり(同じ) |
| 国内制度による保護 | 及ぶ | 及ばない |
| 履歴の入手 | 比較的容易 | 形式が異なり手間がかかる |
| 日本語での問い合わせ | 対応あり | 限られる場合が多い |
税務上の義務は、どの取引所を使っても変わりません。一方で、利用者としての保護や履歴の取りやすさには差があります。取扱銘柄だけで選ぶのではなく、記録を残せるか、いざというときに引き出せるかという観点も含めて判断してください。
申告しなかった場合に生じること
本来の税額に上乗せされる
申告が必要だったにもかかわらず行わなかった場合、本来納めるべき税額に加えて、無申告加算税や延滞税といった負担が生じます。申告した内容が過少だった場合には過少申告加算税が、事実を隠したり偽ったりしたと判断される場合には、より重い重加算税の対象になることもあります。
延滞税は納付が遅れた期間に応じて計算されるため、気づいた時点が遅いほど積み上がっていく性質のものです。指摘を受ける前に自主的に申告したかどうかで、加算税の取り扱いが変わる場合もあります。
資金が残っていないという事態
暗号資産の税金でとくに厳しいのが、納税の時期と相場の動きがずれることです。利益が確定した年の翌年に納付するため、その間に相場が下落して資産が目減りしていると、納税資金を工面できなくなります。
これは制度の問題ではなく、資金管理の問題です。利益が確定した時点で納税分を別に確保しておく習慣を持っておくと、こうした事態を避けやすくなります。
確定した利益と取り分けた納税額を手元のノートに書き留めておく方法もあります。

よくある勘違いを整理する
- 「海外の取引所は日本の税務署の管轄外」:課税されるのは取引所ではなく、日本に住む個人です
- 「日本円に換えていないから対象外」:暗号資産どうしの交換も損益の計算対象です
- 「国外財産調書を出せば申告は不要」:調書の提出と所得の申告はまったく別の手続きです
- 「少額だから関係ない」:所得税の申告が不要な場合でも、住民税の申告は必要です
- 「取引所が潰れたから履歴がなくてよい」:計算根拠を示せないことは、申告する側にとって不利に働きます
いずれも実際によく見かける誤解です。前提を取り違えたまま数年が過ぎると、修正の手間は大きく膨らみます。早い段階で正しい理解を持っておくことが、いちばんの近道です。

よくある質問(Q&A)
Q1. 利益が20万円以下なら申告は不要ですか?
給与を1か所から受けていて、給与所得・退職所得以外の所得の合計が20万円以下であれば、所得税の確定申告は不要とされています。ただしこれは所得税だけの取り扱いで、住民税の申告は別途必要です。海外取引所を使っているかどうかで基準が変わるわけではありません。
Q2. 日本円に出金していなければ申告は不要ですか?
不要にはなりません。暗号資産どうしの交換や、決済への使用も損益が確定するタイミングです。海外取引所の中で売買を繰り返している場合も、その都度計算の対象になります。
Q3. 取引所が閉鎖して履歴が取れません。
可能な範囲で入出金の記録やスクリーンショット、メールの控えなどを集め、計算根拠を組み立てることになります。判断が難しいため、早めに税理士へ相談してください。
Q4. DeFiやDEXでの取引はどうなりますか?
中央管理者のいないサービスであっても、損益が生じていれば計算の対象です。取引履歴はブロックチェーン上に残りますので、アドレスごとに記録を整理する必要があります。
Q5. 海外に移住すれば申告は不要になりますか?
居住者に該当しなくなれば日本での課税関係は変わりますが、居住者かどうかの判定は住民票の有無だけで決まるものではありません。生活の本拠がどこにあるかなど、実態で判断されます。移住を検討する場合は、事前に国際税務に詳しい税理士へ相談してください。
Q6. 過去の分を申告していませんでした。
気づいた時点で自主的に申告するほうが、後から指摘を受けるより負担は軽くなります。期限後申告や修正申告の手続きについて、所轄の税務署か税理士に相談してください。
Q7. 円換算のレートはどれを使えばよいですか?
取引の内容によって考え方が変わります。継続して同じ基準を用いること、その根拠を説明できる状態にしておくことが基本です。判断に迷う場合は税務署に確認してください。
まとめ
日本の居住者であれば、海外の取引所で得た暗号資産の利益についても日本で確定申告をする義務があります。所得区分や計算方法は国内の取引所を使った場合と同じで、同一銘柄は国内外を合算して取得価額を計算します。
国外財産調書については、暗号資産は記載の対象にならないと国税庁のFAQで示されています。ただし財産債務調書の対象にはなりますので、提出要件に該当するかどうかは確認が必要です。
また、暗号資産の取引情報を各国の税務当局が交換する枠組み(CARF)は、日本では2026年1月1日から施行されており、初回の情報交換は2027年に予定されています。正しく申告しておくことが、結果的にもっとも負担の少ない選択になります。加えて、海外取引所は日本の登録業者ではない場合があり、サービス終了や資産保全の面でリスクを抱えている点も踏まえてください。
暗号資産への投資は自己責任です。余剰資金の範囲で行い、税務については国税庁の情報を確認したうえで、判断に迷う場合は税理士や所轄の税務署にご相談ください。


