暗号資産の制度が動くとき、ニュースには「与党が提言」「税制改正大綱に明記」といった言葉が並びます。ところが、提言と決定はまったく別の段階であり、ここを混同したまま情報が広がると、期待だけが先行してしまいます。
この記事では、自由民主党が公表してきた暗号資産・web3関連の提言について、いつ何が示され、そのうち何が実際の制度になったのかを時系列で整理します。なお本記事は、特定の政党や政策への支持・不支持を述べるものではありません。公表されている提言や成立した法律の内容を、事実として確認することを目的としています。
暗号資産は価格変動が大きく、投資した資金を大きく減らす可能性があります。政策の動きが値上がりを保証するものではありません。必ず余剰資金の範囲で、自己責任のもとでご判断ください。

なぜ政党の提言が制度につながるのか
日本で税制や金融規制が変わるとき、おおまかには次のような流れをたどります。
- 党内の部会やプロジェクトチームが論点を整理し、提言をまとめる
- 与党の税制調査会が各省庁の要望を踏まえ、年末に税制改正大綱をまとめる
- 大綱にもとづいて政府が法案を作成し、閣議決定を経て国会に提出する
- 国会で審議・可決され、法律として成立する
- 公布を経て、定められた日に施行される
つまり、提言は出発点であって、そこから制度になるまでには複数の関門があります。提言に書かれた内容がそのまま実現するとは限らず、実現しても時期がずれることは珍しくありません。
情報を読むときは「これは提言なのか、大綱なのか、成立した法律なのか、施行済みなのか」を意識してください。この4段階を区別するだけで、誤解の大半は防げます。
制度のニュースを読み解く前提として、暗号資産そのものの仕組みを入門書で押さえておくと理解が進みます。
これまでの経緯を時系列で
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2022年10月 | デジタル社会推進本部で、NFT政策検討PTを改組する形でweb3PTが設置される |
| 2023年4月 | 「web3ホワイトペーパー(案)」を公表。税制、DAO、消費者保護など9つの論点を提示 |
| 2025年3月 | デジタル社会推進本部において、暗号資産を有価証券とは異なる新たなアセットクラスとして金商法上に位置づける制度改正案が示される |
| 2026年5月 | 「次世代AI・オンチェーン金融構想PT」の提言が最終決定される |
| 2026年6月1日 | ブロックチェーン推進議員連盟が、暗号資産ETFの法的枠組み整備などを求める提言を財務大臣に提出 |
2023年のホワイトペーパー案で示された論点は、国際的なルール策定、税制改正、監査機会の確保、DAO、トークンの審査・発行・流通、消費者保護、金融機関の参入、NFTビジネス、投資ビークルの多様化という広範なものでした。暗号資産の売買だけでなく、事業環境全体を視野に入れた内容だった点が特徴です。

提言のうち、実際に制度になったもの
1. 法人が保有する暗号資産の期末時価評価の見直し
提言で早くから挙げられていた論点のひとつが、法人が持つ暗号資産に対する期末時価評価課税でした。売却していない含み益にも課税されるため、国内で事業を行いにくいという指摘があったものです。
この点は段階的に見直されました。令和5年度税制改正で、自社が発行し継続して一定の譲渡制限が設けられている暗号資産(特定自己発行暗号資産)が期末時価評価の対象から除外されました。続く令和6年度税制改正では、第三者が発行した市場暗号資産についても、譲渡制限が付されているなど一定の要件を満たす場合に原価法を選択できるよう手当てされています。
2. 暗号資産取引の金商法への移管
2025年に示された「有価証券とは異なる新たなアセットクラスとして位置づける」という方向性は、その後の法案に反映されました。暗号資産取引の規制を資金決済法から金融商品取引法へ移す改正法は、2026年7月15日に成立しています。施行は2027年中が見込まれています。
この改正には、無登録業者への対応強化、発行者等による情報公表規制の整備、交換業者への業規制の強化、インサイダー取引規制の創設が含まれます。法案の概要は金融庁の法律案説明資料(PDF)で確認できます。
3. 申告分離課税の新設
個人の税制については、2025年12月に公表された令和8年度の与党税制改正大綱で、特定の暗号資産の譲渡に対する申告分離課税の方針が示されました。これを受けた改正所得税法は2026年3月31日に成立・公布され、4月1日に施行されています。
ただし適用開始は金商法改正法の施行の翌年1月1日以後とされており、記事執筆時点では2028年1月1日以後の譲渡からの適用が見込まれる段階です。現在の取引は、原則として雑所得・総合課税のままです。現行の取扱いは国税庁「暗号資産に関する税務上の取扱いについて」で確認してください。
「税制が変わったから今が買い時」といった説明で取引を勧められた場合は、適用開始時期を必ず確認してください。制度の話を投資の勧誘に使う手口は実際に存在します。
現行の総合課税の計算方法は、暗号資産の税金を扱った解説書でも確認できます。改正の内容を反映した版かどうかも確かめておくと安心です。
まだ提言や検討の段階にあるもの
一方で、提言に盛り込まれていても実現していない項目もあります。
- 暗号資産ETFの解禁:2026年6月1日にブロックチェーン推進議員連盟が財務大臣へ提出した提言に含まれています。ただしこれは要望であり、決定ではありません。記事執筆時点で、日本国内では暗号資産の現物ETFは販売されていません
- DAOに関する法制度:ホワイトペーパー案では、合同会社型のDAOに関する特別法の制定が挙げられていました。制度化の状況は分野ごとに異なります
- 暗号資産デリバティブの税制上の扱い:提言では現物と同様の扱いを求める内容が示されてきましたが、今回の分離課税の対象範囲とは分けて考える必要があります
- 円建てステーブルコインの国際的な活用:2026年6月の提言では、アジア域内の決済における円建てステーブルコインの活用や、2027年5月のアジア開発銀行年次総会を活用した情報発信が挙げられています

提言の背景にある問題意識
一連の提言に共通しているのは、「日本の制度が実態に追いついていない」という認識です。具体的には、次のような指摘が繰り返されてきました。
事業者が国内に留まりにくい
法人が保有する暗号資産に含み益の段階で課税されると、トークンを発行して事業を行う企業は資金繰りの面で不利になります。この点が、事業拠点を海外に移す動きにつながっているという指摘がありました。期末時価評価の見直しは、この問題への対応として進められたものです。
個人の税負担が他の金融商品と異なる
株式や投資信託の譲渡益が申告分離課税で扱われるのに対し、暗号資産の利益は雑所得として総合課税とされてきました。所得が大きいほど負担が増える仕組みであり、損失の繰越もできません。「同じ投資なのに扱いが違う」という点が、見直しを求める根拠として挙げられてきました。
投資家が判断する材料が乏しい
株式であれば有価証券報告書などの開示制度がありますが、暗号資産には同等の仕組みがありませんでした。今回の金商法移管に情報公表規制の整備が含まれているのは、この課題に対応するためです。
提言の背景にあるweb3の技術や事業の考え方は、Web3を扱った解説本でも基本から整理されています。

個人投資家としての受け止め方
政策の動きを追うこと自体は有益です。制度が変われば、取引環境や税負担、選べる商品の幅が変わるからです。ただし、政策の期待を根拠に売買のタイミングを決めるのは避けたほうが安全です。理由は3つあります。
- 実現しない可能性がある:提言は要望であり、法制化されない項目もあります
- 時期がずれる:実現しても、施行や適用開始が数年先になることは普通にあります
- すでに価格に織り込まれている場合がある:報道された時点で市場が反応していることも多く、後から動いても不利になり得ます
制度の情報は、投資判断の材料というより自分の取引環境がどう変わるかを把握するためのものと捉えるほうが、実用的だと考えます。
情報を確認する際の実務的なコツ
- 一次情報にあたる:提言は政党のサイト、法案は金融庁、税務は国税庁が一次情報です
- 日付を確認する:制度が動いている時期は、古い解説がそのまま残っていることが多くあります
- 「見込み」と「確定」を分ける:施行時期が「2027年中の見込み」と書かれている場合、それはまだ確定していません
- 勧誘に使われていないか疑う:制度の話を持ち出しながら、登録のない業者やファンドへ誘導する手口があります。業者の登録状況は金融庁「暗号資産の利用者のみなさまへ」で確認できます
不審な勧誘を受けた場合は、警察相談専用電話(#9110)、消費者ホットライン(188)、金融庁 金融サービス利用者相談室(0570-016811)に相談してください。
よくある質問
Q. 提言が出れば、その内容は実現しますか?
A. 実現するとは限りません。提言は要望をまとめたもので、そこから大綱、法案、成立、施行という段階を経る必要があります。途中で内容が修正されることもあります。
Q. 税制改正大綱に書かれていれば決定ですか?
A. 大綱は方針を示す文書であり、実際には法律の成立が必要です。今回の分離課税については改正所得税法が成立していますが、適用開始時期が別に定められている点に注意が必要です。
Q. 分離課税はいつから適用されますか?
A. 金商法改正法の施行の翌年1月1日以後とされており、記事執筆時点では2028年1月からと見込まれています。確定した日付ではないため、最新情報を国税庁のサイトで確認してください。
Q. ETFの解禁はいつですか?
A. 決まっていません。提言は出されていますが、投資信託制度の整備や保管方法などの論点が残っています。時期を断定する情報には注意してください。
Q. 政策のニュースで価格は動きますか?
A. 短期的に反応することはありますが、その方向や大きさを事前に予測することはできません。政策情報を売買のタイミング判断に使うことは推奨できません。
Q. 制度の変化で個人が今すぐ対応すべきことはありますか?
A. 2026年1月1日以後、暗号資産交換業者等と取引をする方は、税務上の居住地国名等を記載した届出書の提出が必要です(暗号資産等報告枠組み=CARFへの対応)。新規に口座を開設する場合は開設手続きの中で、2025年末までに口座を持っていた既存の利用者は2026年12月31日までに提出することとされています。取引所からの案内には早めに対応してください。
まとめ
- 制度は「提言→大綱→法案→成立→施行」という段階を経る。混同しないことが重要
- 2022年にweb3PTが設置され、2023年4月にホワイトペーパー案が公表された
- 法人の期末時価評価の見直しは令和5年度・令和6年度の税制改正で段階的に実現
- 暗号資産の金商法移管を含む改正法は2026年7月15日に成立、施行は2027年中の見込み
- 申告分離課税は制度としては成立済み。適用開始は2028年1月からの見込み
- ETF解禁は2026年6月に提言が提出された段階で、時期は未確定。国内で現物ETFは販売されていない
- 政策の期待を売買判断の根拠にしない。制度情報は取引環境の把握に使う
政策の動きは、暗号資産という分野が制度の中に組み込まれていく過程そのものです。感情ではなく日付と段階で読む。これだけで、情報の受け取り方はかなり変わってきます。
※投資は自己責任です。必ず余剰資金の範囲で行い、最新の情報は各公式サイトおよび金融庁・国税庁の公表資料でご確認ください。
※記事執筆時点の情報です。制度・税制・サービス内容は変更される場合があります。最新の情報は各公式サイトでご確認ください。

